密だった頃の記録_2019.9.22 音博 のナンバーガール

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「なんかあの~雨がザァーザァーっと降り始めてからですね・・・なんかあの・・・すいません」

17年ぶりに見たナンバーガールのライブは、向井秀徳のこんな歯切れの悪いMCから始まった。

京都音楽博覧会。通称「音博」。京都の街中にある梅小路公園で毎年くるりがホストで行なっている音楽フェスである。
公園内では明治時代に使われていた市電(チンチン電車)が走り、会場のすぐ隣には京都水族館もあって、ステージエリアからはイルカショーをやってるプールも見えたりする。和やかな雰囲気に包まれたフェスで、出演者もそれに合わせたゆったり系音楽をやっている方々が多い。

こんな中で、ナンバーガールの爆音を炸裂させ、癒しの空間をぶち壊してもよろしいもんなのかと思ったのだが…もしやそれがくるり岸田氏の目的なのだろうか?

案の定、岸田氏の思惑が叶ったのか分からないが、冒頭の向井のMCで言った通りライブ直前には急な大雨が降り出し、穏やかだった会場の雰囲気は一転して殺伐とし、ピリッとした緊張感漂うものに変わっていた。

そんな中、修験者のごとく雨に打たれながら待つこと数分・・・何の変哲もない黒シャツ姿の向井がふらっと現れドラムセットの淵に座って、ざわめき立つ客を見渡しながら缶ビールを飲み始めた。なんだか客の様子を伺っているようにも見える。

そのうちアヒト・イナザワ田渕ひさ子中尾憲太郎も現れ、それぞれがセッティングとチューニングの音を出し始め、それに荒ぶる客の怒声と叫びが重なり合い混沌とした空気の中、向井が『tatooあり』のサビのフレーズを弾き出すとさらに客の歓声が一層高まり、向井が冒頭のあのMCを言ったその直後、中尾のベースから破壊的な重圧音が鳴り響いた。

鉄風鋭くなって』のイントロだ!

それに「発狂した飼い猫を~」と、とち狂った歌詞を歌う向井の声が乗っかり、そしてアヒトのドラムとひさ子のギターが炸裂!

…そこには17年前と変わらない凄まじい混沌と爆音を聞かせてくれるバンドが戻ってきていた。そう実感した瞬間、落ち着いて冷静に見るつもりだったのだが、気づいたら端っこの最前列で周りの荒ぶる人たちと同じく無心で「ハイ!ハイ!」と片手を上げ声をあげている自分がいて、「かぜぇっ~!!鋭くなって!」と、ステージの上にはZAZEN BOYSでひょうひょうと冷製沈着にやる向井ではなく、昔見ていたままの顔を歪ませシャウトしているナンバーガールの向井の姿があった。

その後『タッチ』『ZEGEN&UNDERCOVERと、当時のバリヤバイ黄金青春曲が立て続けにやられたもんだから、無我夢中で聞いてそして全身でノっていた。

 そして、ふと我に返った瞬間あることに気づいた。ここまでの3曲は昔よりテンポ遅くなっていないか?当時と比べて鋭さに緩みが出てぬるくなったんじゃないかと思えてきた。確かに向井の歌うテンポも幾分かゆっくりになり、昔より溜め込みが増え、ただのシャウトだったのがビブラートシャウトになっているような気がする。それはそれでコブシが効いた渋い感じでいいと思うのだが、そのテンポに合わせてメンバーの演奏も丁寧なものとなっており、なんだかそれがぬるく聞こえてしまって、MAXハイテンションの観客との間に隔たりがあるようで違和感を覚えてしまっていたのだが…

「福岡市博多区からやって参りましたナンバーガールです。ドラムス、アヒト・イナザワ!」うぉっ!そんな事考えている場合じゃない!
このMCがあったらアノ曲が始まるじゃないか!

そうOMOIDE IN MY HEADだ。

もう違和感なんてどうでもいい!

アヒトの叩きまくるドラムソロに重なるように中尾・ひさ子・向井が一斉に弦をかき鳴らす音にうわ~っ!と雄叫びを上げて、大雨に濡れるのもかまわず、より音をクリーンに聴きたい為に被ってたポンチョのフードを脱いだ。

そしてステージ上では、加速してゆくアヒトのドラムに、中尾は後ろ姿のままスピーカーに向かって野太い音を出し、ひさ子は片足を浮かせてギターを少し上げノイズを鳴らす。さらに向井のギターソロも重なり、ドラムのリズムに合わせて「ハイッ!ハイッ!」と客の掛け声もどんどん高まり、一瞬音が途切れベースの中尾が拳を振り上げた瞬間、懐かしのメロディが轟音と共に襲いかかる! 
同時にノスタルジックな思い出も襲い来る!!

ああ、昔と同じだ。そう思った瞬間、当時の熱い思いもなんか蘇ってきちゃったもんだから、圧迫にも負マケズ、暴君のように暴れて頭をぶん回し、限られた空間の中でさっきよりも精一杯暴れまくった。

そんな狂乱の最中にステージ横にあった巨大モニターに目を移すと、ある風景が目に飛び込んできた。

左側には相変わらず客に背中を見せ、アヒトのドラムに向かって一心不乱にベースを弾く中尾憲太郎。右側には垂直にぴょんぴょん跳ねながら、涼しい顔で向井をチラ見してギターを弾く田渕ひさ子。ど真ん中にはメガネを左片方だけ曇らせ、膝を曲げたガニ股スタイルで、サムライのごとく堂々とした威圧感でギターをかき鳴らし顔を歪めながら歌う向井修徳。その真後ろには髪を振り乱して狂ったようにドラムを叩きまくるアヒト・イナザワ

これが現在のナンバーガールなんだと、OMOIDE IN MY HEAD歌詞のごとく頭の中の思い出が遠ざかり、だんだんクリアになってゆくような現実なんだと妙に納得した瞬間でもあった。ラストはひさ子のギターソロ&アヒトの乱れ打ちで狂乱の時間は終了し、向井は終演後の舞台のような丁寧なお辞儀をして曲締めをした。

大興奮中の荒ぶる客たちは、曲間の静かな時でもメンバーの名前を連呼したり、野次を飛ばしたりして、殺伐とした空気が流れる中、ポ~ッ!と公園内のチンチン電車の間抜けな汽笛が響き、チューニングをしてた中尾も顔を上げて反応していた。向井も汽笛の音に惹かれたのか、昔と変わらない詩を朗読しているようなあの口調でMCを始めた。
「あの子が、幽霊列車に飛び乗って消えていったよ。その時あの子は17歳でありました・・・」
そして、独特なスローテンポとちょっとメロウなギターイントロが鳴り響く
『YOUNG GIRL 17 SEXUALLY KNOWING』である。

クールダウン的なスローナンバーでもあるが、決して休憩タイムになんかはならない。その証拠に曲が進むにつれ、バンドが奏でる音はどんどん重みを増し、向井のヴォーカルも歌っているというよりは咆哮となり、結果的には荒ぶる全ての感情をぶつけたようなシャウトが会場中に響き渡った。

「かん、ぜん、にぃ~、セクシャル・ノウイ~ング!」

さらにひさ子のハウるギターノイズ、会場を揺さぶるような中尾&アヒトのリズム隊の演奏も加わり、昔よりえぐさが増した曲となっていた。

 

 「そして、たまにはあの子が“透明少女”です」

前曲の終了直後に向井がそう言い放った後、先ほどの重い空気をとっぱらうかのように、ひさ子が弾く高速で軽やかな懐かしいイントロが突き抜け、そこに中尾はアヒトのカウントに合わせて手を突き上げた後、リズミカルな重低音を絡めてきた。後方からは、久しぶりに聞くあのイントロに興奮した人が投げたのか、空き缶が頭上を飛んでゆき、さらにはダイバーが吹っ飛んできて、ナンバーガールのグルーヴ感満載の『透明少女』が爽やかに駆け抜けていった。そして偶然にもこの時に不快感満載だった雨雲はどこかへ消えてしまい、うっすらと日差しも差し込んで爽快感を感じた瞬間でもあったのだった。

「日常に生きる少女のお話をひとつ…」と、向井が静かに弾きながら呟いた後、突如気合いが入ったカウントを叫び天変地異が起こったような轟音が一斉に鳴り響いた。『日常に生きる少女』だ。
これもとうの昔に体験済みなのだが、その感覚をすっかり忘れてたのか呆気に取られてただ呆然と突っ立って見ているのみとなっていた。轟音イントロ後はひさ子の弾く軽やかなメロディが流れ、客達の懐かしいカウントと共に本編に突入。
そして「日常にぃ~、生きているぅ~!」と、サビ的な向井の必死の形相シャウトが終わったら、今度はさっきよりもデカイ轟音で2度目の爆音ノイズタイムが始まった!しかも長時間だ。

その時のナンバーガールは四人四様で、中尾は後ろ向きになりアンプにベースを突き立ててしゃがみながら弾き、ひさ子はアヒトに向かって横向きでギターを突き立ててギターをかき鳴らし、アヒトは狂ったように全力でドラムを叩きまくり、向井は片手でギターの弦をかき鳴らしながら、もう片方の手でアンプの上にあったアサヒスーパードライを手に取り一気飲みした後、空き缶をステージの後ろに投げ捨てて、ひさ子の音に被せるように両手を使って精一杯ギターをかき鳴らしていた。この轟音がマイブラの『Feed Me With Your Kiss』のサビのごとく途轍もなく続くかと思っていたら、1分ほどでふっと急に音が止んでひさ子の穏やかなギターイントロが流れ、このままで終わるかと思いきや、静かに歌っていた向井が「・・・・気づく!」と異常に溜め込んでシャウト気味に叫んだ瞬間、ひさ子ちゃんがぴょんぴょんと飛び跳ねながらギターを弾き始め、最後に軽めの爆音演奏をやりきり『日常に生きる少女』は終了した。

 次は昔に聞いたことがあるような特徴あるフレーズを向井が弾きはじめ、ノスタルジックな気分に浸る間もなく、「記憶探しの・・・旅ばっかですわ。」と向井呟いた直後、ひさ子が強烈なギターソロを炸裂させた。

「右肩ぁ~!刺青ぃ~!残像ぅ!」 

うぉっ!tattooあり』だ。

ここまでイントロ部分だけで曲が分かったのに、この曲では歌詞が出てくるまで
まったく思い出せなかった自分が情けないなと、ノリながらもちょっと反省していると曲の山場であるひさ子のギターソロが始まった。昔と変わらないキレキレの激しいギタープレイを見せつけ、さっきまで男性の声援に可愛らしく微笑んでいた人とは信じられないぐらい恐ろしく鬼気迫った厳しい顔で弾いていたのだった。

曲が終わりちょっとした静寂になった後、向井は最後のMCを語り始めた。
「え~みなさん、ぐるりっちゅうバンドの岸田シ~ゲルさんから、
岸田ドクターシ~ゲルさんから、3弦5フレッドPのシ~ゲルさんから・・・」
と、音博主催のくるりの岸田をいじり倒した後、音博に出演することになった経緯を話し始めた。(要約すると、再結成を発表した2分後に岸田から電話がきて、出演することになったそうだ)

その後「福岡市博多区からやって参りましたナンバーガールです」 
と向井がまたあの決め台詞を言い、穏やかなアルペジオを弾き始めた。

「あの子の本当 オレは知らない~ あの子の嘘を オレは~・・・知らんくせっ!」
博多弁で切り捨てるように言い放った後、それが合図といわんばかりに一斉に爆音攻撃を仕掛けてきた。一瞬怯んだが、昔、散々脳内アドレナリンを沸騰させてくれた『I don't know』なんだと記憶が蘇り、待ってました!と言わんばかりにその場で飛び跳ねた。「うぉ~い!!」と向井は最高に上がる連続シャウトをした後、ステージから丸見えとなっている水族館のイルカショーエリアに向かってビシッ!と指差し、そちら方向を見つめながら「あの子の本当に・・・」と歌い出した。

これが何を意味するものなのか全く分からない。
イルカショーを見てハッピーにはしゃいている人たちへの何かの警告なのか?それともオレのライブも見ろ的な自己アピールなのか?
……と、向井の奇妙なパフォーマンスが気になってしまい、悶々と考えている間に3分弱のアドレナリン沸騰タイムは、気づいたら終了してしまっていた。

しまった!今度はいつ生で見れるか分からないのに、なんて勿体ないことをしてしまったんだ!そんな後悔の念を抱きながら、全ての演奏を終えてステージを去ってゆくメンバーを見送っていると、またもやイルカショーのプールに向かってビシッ!と指差しながらステージ袖に帰る向井の姿があった。

本当、一体何のアピールなんですか?

こうして18年ぶりに見たナンバーガールは、向井秀徳の謎の行動で終わったのだった。

 

 [セットリスト]

1、鉄風鋭くなって

2、タッチ

3、ZEGEN VS UNDERCOVER

4、omoide in my head

5、Young Girl 17 Sexually Knowing

6、透明少女

7、日常に生きる少女

8、tattooあり

9、I don't  know