笑いのFUJIROCK 06

毎回たくさんのアーティストが出演し、数々の伝説のライブを生み出すフジロック。感動のライブレポートを伝えてもよかったのだが、それは音楽雑誌でも読めば分かる事なので、今回は私の見た中であえて『笑い』に近い、エンターテイメント中心のライブレポートをお伝えしたいと思う。
赤犬

赤犬のライブは凄い!」と噂で聞いて以来ずっと気になっていたバンドだ。一体何が凄いのか?それを確かめるべくホワイトステージへ向かった。
 最初にアメリカ国歌にのって、段ボールで作られたお粗末なキリンのハリボテを冠った人が登場。なぜか日本国歌君が代』の歌詞で浪々と唄い、ラストにキリンの首はスルスルと天高く伸びてゆく。
 かなりインパクトのある登場に唖然としていたら、残りのメンバーも次々と登場。ヴォーカル3人編成にホーン隊やパーカッションを織り交ぜた10人以上の大所帯のバンドらしく、なぜかメンバーの中でアース・ウィンド・アンド・ファイヤーのような白いシャツを着た人と、全身白タイツの姿の人が目に付いた。変な衣装だなと疑問を抱きながらライブを干渉。曲調はスカやアイリッシュを思わせるようなフレーズが多く、ノリのいいお祭りサウンドに会場は早くも盛り上がっていた。
 3曲ぐらいやったところで「今日はスペシャルゲスト!ホワイトベースです!!」と謎のMCがあった後、ヴォーカルの白タイツ男が、紙で作ったお粗末なロボットのツノや翼を貼付けて、正座の姿勢で台車に乗って登場。最初は分からなかったが、じっくり見てやっと気づく。あのガンダムに出てくる宇宙船ホワイトベースなのか!凄いモノマネだなと驚いていたが、さらにアース・ウィンド・アンド・ファイヤーの衣装の人は、モーリス・ホワイトのコスプレと判明。どうやら「ホワイトステージ」と掛けてのネタらしく、そのくだらなさに思わず失笑してしまう。
 そして勢いに乗った彼らは、「ホワイトステージを真っ赤に染めてやる!」と宣言した後、メンバーの大半が赤いフンドシ姿になり、ハイテンションな演奏でステージ上を暴れまくり、しまいには観客へダイブする始末。
 さらに最後には最強の曲を聞かせてくれた。『U.N.C.O』ウンコの歌だ。サビの部分でアイドルコンサートのように1文字づつ、U(ユー)、N(エヌ)、C(シー)、O(オー)と手で振り付け「ウンコ!」と叫ぶ赤犬の強烈なアホなパワーに、観客も引き込まれ、気づいたらホワイトステージは「ウンコ!」の大合唱となり、異様な盛り上がりで幕を閉じた。
 さすがに「凄い!」噂されるだけある。赤犬はのライブはとてつもないインパクトを与えてくれたのだった。

JARVIS COCKER

10年ほど前、パルプのライブでみたジャービスは、とても美しい美青年だったことを覚えている。そんな彼に久しぶりに会えるかと思うと……ドキドキしながら開始を待つ。
 しかしステージに現れたのは、時代遅れのいかつい黒ブチ眼鏡にスーツ姿の中年オヤジ。髪型はオタッキーちっくなロングヘアー。しかもリンゴをかじりながらと、まったく似合ってないキザな演出で登場だ。かなりの変化ぶりにショックを受けたが、演奏が始まってみると、パルプ時代とかわらない体をクネクネさせるパフォーマンスとシュールなマイクさばきは健在で安心する。
 MCも相変わらずギャグセンス満載で、ポカリ片手に「ポカリスウェットを渡されて、中身は汗(スウェット)だと思って、吐くかと思った」と吐く仕草をしたり、「フジロックは健康でいいね、イギリスのロックフェスなんてこんなさ」と薬飲んでふらふら歩く人の真似をしていたりと、楽しませてくれる。
 ちなみに今回やった曲はソロアルバムがメイン。ポップなパルプ時代と違ってシンプルな曲が多く、後半はピアノを中心としたゆったりした曲調が多かった。
 その雰囲気にのまれて、すっかりおとなしくなってしまったオーディエンスを盛り上げるためジャービスは言った。「この曲なら知ってるでしょ?」一瞬、パルプの『コモン・ピープル』でもやるのか!?と期待したのだが、やった曲はなんとブラック・サバスの『パラノイド』!
 クネクネダンスをしながらジャンプをし、まったく声量のない声でシャウトする姿は、ものすごくチグハグで似合ってない。でもそれがユーモアたっぷりのジャービスらしい表現なのだろう。どんなに見た目が変っても、相変わらずのジャービス・コッカーに楽しませてもらった。

KAISER CHIEFS

最前列でライブ待ちをしていた時「ハイハイハイ!」と大声で手を叩きながら、ステージ下を通りすぎてゆく1人のスタッフを見かけた。その時は妙にハイテンションなスタッフだなとしか思わなかったのだが、ライブが始まってみたらビックリ!その人はなんと!ヴォーカルのリッキーだったのだ。
 彼はスタッフ用のオレンジ色Tシャツに、黒のベストを羽織った姿。これではスタッフと思ってしまうのも仕方ない。さらに2年前に見た時よりかなり体系も変り、少し太り目のプックリと丸い体となっていた。最近撮られた2ndのジャケ写真とも雰囲気がまったく違う。
 本当にリッキーなのか? なんでもありのフジロックだ。実はドッキリで、ステージ袖から「ハローフジ!」とかいって本物が出てくるんじゃないか? 疑いを持ちつつ見ていたが、4曲目の『Na Na Na Na Naa』のハイトーンボイスを聞き、やっと本物と確信した。
 そんな混乱もあったが、落ち着いて見てみるとリッキーのパフォーマンスは凄かった。見た目と違って身軽で、右へ左へステージを駆け回り、飛び跳ねたり、手拍子で客をあおったり、さらにステージを降りて客エリアを走りまくり、挙句の果てには、ステージ横のドリンクバーまで行き、観客にもみくちゃにされながらポカリを持って帰ってくる。
 そんなリッキーのハイテンションなパフォーマンス、そしてバンドが奏でるポップでダンサブルなロックサウンドに惹かれ、少なめだった観客も徐々に集まり盛り上がっていた。 
 しかしラストにやった『Oh My God』で、リッキーはサビで観客に合唱を求めていたのだが、歌詞が分からない人が多いためなのか、小合唱になってしまい、物足りない感じでライブは終わってしまった。せっかくサビが「ラララララ〜」とか「ナナナ〜」など、誰でも一回聞いただけで歌える曲があるのになぜラストに持ってこなかったのか?と少し残念に思ったが、これだけ楽しいライブを見せてくれたからまあいいかと妥協したのだった。

iggy&the stooges

やっぱりイギー・ポップは凄かった!最初から上半身裸で登場し、60歳とは思えないムキムキのたくましい筋肉を見せつけ、ストージーズの暴力的演奏に合わせ、個性的なポーズ&ダンスと叫びで、ロックの凶器を見せつけてくれた。
そんなカリスマ的存在でもあるイギーだが、今回のライブではちょっと笑ってしまうハプンジングがいくつかあった。
 『アイ・ワナ・ビー・ユア・ドック』で客席に降りて来たイギー。ひと暴れして、ステージに戻るため柵を越えようとしたその時!なんとセキュリティが突き飛ばし、柵越えを阻止したのだ。あのイギーと観客を間違えるなんて!普段ならセキュリティに怒りを覚えるのだが、あまりのありえないミスに吹き出してしまった。
 その後なんとか柵を乗り越えたイギーは、ステージすぐ下の低い台のところで客を煽っていたのだが「ボコッ!」とマイクを落とす音ともに姿が消えた!あわてて駆けよるスタッフ。どうやらイギーはステージの隙間に落ちてしまったらしい。なんとか助け出され、勇ましくコブシを突き上げ観客にアピールするイギー。その姿はまるで、格闘技マンガで老人の師匠が「わしゃ若い者にはまだまだ負けんぞ!」と威嚇しているようにも見えてくる。そんなイギーはコミカルにも思えたが、拍手喝采を送りたい気持ちもになった。
 『ノー・ファンク』ではイギーは「カモン!」と叫ぶのと当時に、観客がステージに上がり始め、あっという間に100人近くの人が集まり、一種カオス状態に!そんな状態で冷静にライブをこなすイギーは格好良かった。
 しかしそんな狂乱のステージが終わり、イギーの「ゴーインダウン!」の声に促されて観客が降りてゆくなかハプニングは起こった!1人の男子が「イギー、アイ・ラブ・ユー!」と、熱烈な告白攻撃を仕掛け抱きついてきたのだ。これに興奮した他の暴君たちもイギーに抱き、イギーの姿が隠れる。次に見えた時は、巨体の黒人セキュリティに両腕をつかまれステージ袖へズルズルと引っ張られるイギーが。小柄な体系のイギーだと、親がいたずらした子供を無理やり連れて行くようにも見えて、そのコミカルな場面に笑ってしまった。
 その後ステージ上も落ち着きライブは再開。何ごともなく4曲ほど演奏してライブは終了したのだが、観客のアンコールを求める声にイギー再び登場。そしてアンコールに選んだ曲は『アイ・ワナ・ビー・ユア・ドック』!?
さっきもやったよソレ!と思わずツッコミを入れたかったが、イギーにとっては、ステージに落ちて情けない姿を見せたし、リベンジしたかったのだろう。確かに最後に股間ギリギリまでジーンズを下ろして「アイ・ワナ・ビー・ユア・ドック!!」とシャウトする姿は、元祖カリスマパンクロッカーの威厳を見せつけてくれたのだった。