泣きのFUJIROCK 09

もうフジロックに行き始めて10年ぐらいになる。毎年お祭りようにはしゃぎまくり、思い返しても幸せな思い出しかなかったのだが、今年のフジロックはなんだかひと味違っていた。悲しくて切ない気持ちが高ぶり、泣けてしまったライブを何度か体験したからかもしれない。そんな思い出を綴ってみたいと思う。
Chara

毎年夫婦で遊びにくるほどのフジロックが大好きで有名なチャラ。「ずっとフジロックに出たかった」と本人が語るほどの憧れのステージ出演ということもあって、初っ端からとんでもないハイテンションでスタートした。1曲目の『やさしい気持ち』は本来バラードソングなのだが、ウィスパーヴォイスを張上げサビには「イェイェ〜!」とコーラスまで挟みファンキーに歌い上げていた。そのままテンションで4曲歌い上げ「ワタシ晴れ女なの〜!」と雨の止まない中、不思議なMCを放つチャラの姿は、まさしく天真爛漫と言うとおり無邪気にフジのステージを目一杯楽しんでいるようだった。
 だが次の曲でステージの雰囲気は一気に急変した。チャラはアコースティックを持ち出し、哀愁のメロディが漂う『甘い辛い』という曲を歌い始めた。はじめて聞く曲だったのだが切々と歌い上げる様に、胸が締め付けられるようだった。更にその曲が盛り上がる瞬間、降り続ける雨の中にも関わらず、急に太陽が出て会場を明るく照らし出したのだ。雨が日の光に反射してキラキラ輝き、神秘的な雰囲気に会場は包まれた。偶然が生み出した演出とチャラの物悲しい歌声のコラボレーションに感動し、そして気づいたら涙が浮かんでいたのだった。
 その後は『Tiny Tiny Tiny』『Break heart』『Call Me』をもの悲しく歌い上げライブは終わった。最初あれだけ楽しそうにはしゃいでいたチャラが、なぜこんな悲しい終わり方をしたのだろうか。その理由は翌日の浅野忠信との離婚報道で分かった。そういえば浅野に捧げたという曲『Tiny Tiny Tiny』を歌い終わった後チャラ自身が涙を流していた。あの後半に歌った曲は、チャラから浅野への最後の愛の告白だったのだろうか。

THE BIRTHDAY

フジロックの2日前に元ミッシェル・ガン・エレファントのギタリスト、アベフトシが亡くなったことを知った時、悲しみと同時にバースディのライブが心配に思ったのを覚えている。今でも交流があったチバとクハラにとっても相当ショックだっただろう。特にチバは作る歌詞からも伺えるように、怖そうな外見と違って弱さや脆さを持った繊細な人格の持ち主でもある。そんな彼が友人でもあり盟友だった仲間の死を受け入れ、すぐステージに立つことはかなり辛い事だろう。
 しかしそんな心配を余所に、バースディは普段の様子と変わらずステージに現れた。気になったのはチバが纏っている凶暴ロッカーのオーラや覇気などがまったく無く、どこか憔悴しきった表情だった。だが、ステージの正面に立ち、しっかりとマイクを握り会場にこう言い放った。
「今日のライブは、俺たちの大親友だったアベフトシに捧げます」
 その直後、怒濤の演奏が始まりチバは歌い出した。それはけっして感傷に捕われたものではなく、図太く堂々とチバが今自信をもって奏でるバースディのロックだった。4曲目が終わった辺りだったろうか、それまで崩れそうな自分を必死で支えるかのように険しい表情でいたチバが、澄んだ青空を見上げ「気持ちいいね」と呟き、ふっと微笑んだ。その表情は何かを吹っ切ったような、とても穏やかな微笑みだった。カリスマロッカーではなく、初めて見るチバの人間臭いこの微笑みを一生忘れることはできないだろう。バースディのライブ終了後、いつの間にか涙を流している自分に気づいたのだった。

忌野清志郎スペシャル・メッセージ・オーケストラNICE MIDDLE with New Blue Day Horns

今まで最も多く出演し、テーマ曲も提供するというフジロックには欠かせないアーティストでもあった忌野清志郎。その彼の追悼ライブが会場の最大ステージ、グリーンステージで盛大に行われた。出演者も泉谷しげる、Char、YO-KING浜崎貴司UAトータス松本甲本ヒロト真島昌利、チャボなど。またそれに加えて海外からはウィルコ・ジョンソンブッカーTなどの大物アーティストまでも参加。総勢20人以上の豪華な面々が、清志郎が遺した名曲や縁のあった曲を入れ代り立ち代り次々に熱唱していた。会場を埋め尽くした観客もそれに合わせて熱狂し、大いに盛り上がっていた。観客数は前日のトリを飾ったオアシスを有に超していただろう。
 確かに「追悼」という暗いイメージからはほど遠く、とても面白いライブではあったが、1曲だけどうしても楽しめなかった曲があった。『JUMP』で清志郎の過去のフジのライブ映&音声にあわせて、最近まで一緒にライブをやってきたバンドNICE MIDDLE with New Blue Day Hornsが生演奏をするという演出があった。清志郎の強烈な歌声は聞こえるし、スクリーンでは元気に跳ね回って歌っている姿が見える。まるでその場に清志郎がいるかのような錯覚に陥いったが、実際にステージ上をくまなく探しても彼の姿はどこにもない。それは清志郎がこの世にいない現実を突きつけられた気がして、なんだか泣けてきてしまったのだった。もうどんなに願っても「雨上がりの夜空に」のへなちょこロックンロールな歌声も生で聞く事はできないのだ。
その後は浮かれ気分が急に冷めてしまったというのもあるが、別ステージのライブも気になっていたので、その場から立ち去った。
 後日、最後までこのライブを見ていた友人が教えてくれたのだが、甲本ヒロトがこんな名言を言っていたそうだ。
「ロックンロールは死にませんよ!世界中の子供たちが、ここにいる皆さんが、泣いたり笑ったりするのをやめない限り、ロックンロールは死にませんよ!だから、泣き喚いてください!」
そうだ。悲しくても辛くてもロックロールは永遠に終わらない。なんだか今年のフジロックを象徴している様だな、としみじみと思ってしまったのだった。